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ある小児科医が伝えたいこと。

2011年2月16日以降更新されません。

日本脳炎の予防接種について


 日本脳炎の新しいワクチンが2009年6月より接種可能となりましたので、ご紹介させていただきます。当面は生産量が十分ではないため、希望者が多数おられますとお待ちいただく場合もございますのでご了承ください。また日本脳炎の定期の予防接種を希望される場合は 市区町村の担当窓口に相談の上でお申し込みください。

<日本脳炎について>

 日本脳炎ウイルスを持った蚊が人間を刺すことで感染します。自然に感染した場合には1/100〜1/1000の確率で発症するとされています。症状が出るものでは、6〜16日間の潜伏期間の後に、数日間の高熱、頭痛、嘔吐などで発病し、引き続き急激に、光への過敏症、意識障害(意識がなくなること)、けいれん等の中枢神経系障害(脳の障害)を生じます。脳炎を発症した場合20〜40%が死亡に至る病気といわれており、幼少児や高齢者では死亡の危険は大きくなっています。精神障害や運動障害などの重度の後遺症を残す割合は助かった人の約50%とされており、軽症の後遺症も含めると助かった方の多くが何らかの後遺症を残しえます。

<従来の日本脳炎ワクチンで何があったか>

 厚生労働省は平成17年5月に定期予防接種としての日本脳炎ワクチン接種の積極的な勧奨を差し控えとなりました。厚生労働省はその理由を「科学的な因果関係は不明なものの、マウスの脳を用いた日本脳炎ワクチンを接種した後に重症ADEMを発生した事例があったことから、より慎重を期するため、定期予防接種としての日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨は行わないよう市区町村に勧告し、希望する者に対しては、定期接種として接種を行って差し支えない旨の通知をしたものです。」としています。後半の下線部に対しては十分な通知が行き届いたと言えず、地域行政レベルでの混乱もあって、定期接種期間中の接種機会を逃す方もおり、多方面で混乱を与えた感が否めません。ADEMの発症率を他の予防接種と比較しても特別高いとは言えないため、従来のワクチンの勧奨が差し控えられたことについての反対意見も多くあります。

<ADEMとは>

 ウイルス等の感染後あるいはワクチン接種後に、稀に発生する脳神経系の病気です。多くの患者さんは正常に回復しますが、運動障害や脳波異常などの神経系の後遺症が10%程度あるといわれています。自然発生頻度は小児1人当たり1か月あたりで100万分の1となっています。従来の日本脳炎ワクチンの接種後のADEMの発症率は、70〜200万回の接種に1回程度(日本全国で1年に1人程度)とされています。ワクチン接種後の発生率には自然発生分も含まれまするため、予防接種によるADEMの発生率が100万分の1程度であれば特に問題ないレベルと考えられています。新しい日本脳炎ワクチンにおいても理論上は従来のワクチンよりも少ないとされていますが、発生は否定されていません。これは多くの小児に対して使用された実績がないためで、製造販売後の安全性情報のモニターを一定期間行うこととしています。

<日本脳炎ワクチンは受けるべきか>

 西日本は感染のリスクが高い地域とされています。感染時の発症率が1/100〜1/1000ですが、発症した場合の死亡率や精神障害や運動障害などの重度の後遺症の割合はかなり高い病気です。日本脳炎ウイルスは日本だけでなくアジア全体に存在しており、患者数はアジア全体で年間3〜5万人で致死率は20〜40%、生存者の45〜70%に後遺症が出るとのことです。さらに西ナイルウイルスなど日本脳炎ウイルスと類似のウイルスは世界中に存在しています。ADEMの発症率を考慮しても西日本に住んでいる子供、海外(特に東南アジア・南アジア)に行く方では、予防接種を受けることが望ましいでしょう。新しいワクチンでも従来のワクチンでもどちらでも構いません。また温暖化のことも考慮すると東日本に住んでいる子供でもワクチン接種は考慮して良いと思われます。

<Q&A>

Q1:従来のワクチンを受けている場合、次から新しいワクチンで接種可能か

A1:現時点では不可能です。従来のワクチンでの接種は可能です。将来的には可能になるとは推測されます。

Q2:ワクチンの副反応は?

A2:まれに接種直後から翌日に発疹等の過敏症がみられることがあります。全身症状としては発熱や頭痛、接種部位の局所症状としては発赤、腫れ、痛みなどが認められることがありますが、通常は2〜3日中に消失します。


Q3: 伝達性海綿状脳症(TSE)とは?

A3:新しいワクチンでは、製造の初期段階で米国又は日本産ウシの血液由来成分、動物種及び原産国が明らかでない乳由来成分を使用しているため、伝達性海綿状脳症(TSE)という牛の狂牛病の類似疾患の可能性が0でないとされていますが、そのリスクは多く見積もって1000億分の1の頻度(世界全人口が70億人程度ですから、その14倍の人に接種して1人発症するかどうかというレベル)であり、一定の安全性を確保する目安に達しているとされています。このようにほぼ起こりえないことを説明すると不必要な心配を与えるだけで好ましくないとの意見もあります。それでも行政はあえて説明を考慮するように要求しているのは何かあったときに困るからということのようですが、行政がそれだけ副作用に過敏になっているのでしょう。


日本脳炎ワクチンの接種期間 (期間中の方は無料で接種できます) 

 1期(3回)

    初回接種(2回):生後6か月以上90か月未満(標準として3歳)

    追加接種(1回):初回接種後おおむね1年後(標準として4歳)

 2期(1回):9歳以上13歳未満の者(標準として9歳)

 

 この期間での接種機会を逃した方に対する救済措置はまだ決まっていません。

 少なくとも平成21年度中に救済措置が行われることはないようです。


以下もご利用ください。

母子手帳の予防接種欄
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